市民の実践例

作品タイトル 「定型外」の強み~障がい児育児と仕事の両立~平成29年度 市長賞 受賞南條 美樹 さん

 ここでは,平成29年度「真のワーク・ライフ・バランス」実践エピソード表彰において,市長賞を受賞された,南條美樹さんのエピソードについて紹介します。

「定型外」の強み~障がい児育児と仕事の両立~

 私の息子は小学3年生です。2歳の時に,発達障がいのひとつ,自閉症スペクトラムと診断されました。

 3歳年上の娘は,障がいのない「定型発達児」です。その娘1人だけを育てている時でも,フルタイムで働きながら子育てをするのは,まさに時間との戦いでした。それに加えて9年前から,感覚過敏やこだわりが強く,コミュニケーションもままならない息子の育児。体力的にも精神的にも消耗が激しい毎日が始まりました。

 私は月曜から金曜まで毎日8時間働くのが基本スタイルの,ごく一般的な会社員です。

 毎日8時間を何の制約も無しに働ける人が「定型」会社員だとしたら,私は制約だらけの「定型外」会社員です。入社して15年以上が経ち,「もっと重要な仕事にもチャレンジしたい」という思いもありながら,現実には息子が赤ちゃんの頃から現在まで,療育(障がい児のための専門的な治療教育)や通院,検査,学校への付き添いや面談などで,平日の日中に仕事を抜けて対応しなくてはいけないことが,山のようにあります。息子とともに療育を受けているお子さんのお母さんたちは,平日の療育を受けに行くために,止むを得ず仕事を辞めた方が多いです。しかし私は長年,週に数日の在宅勤務を認められており,息子のための時間と,業務の時間を,1日の中でめまぐるしく切り替えながら,仕事と息子の療育を両方諦めることなく続けることができています。

 その結果,息子は少しずつ成長し,今は地元の小学校の普通学級に在籍し,入学から1日も休まず毎日元気に学校生活を送っています。赤ちゃんの頃から療育を続けてきたおかげで,息子はずいぶんと落ち着き,我が家の生活は見違えるほど穏やかになりました。また,私は発達関係の資格を複数取得し,我が家で実践してきた療育の経験をもとに,週末に発達障がい児のお母さんのための勉強会を開催しています。この会には他府県から参加してくださる方もおられ,発達障がい児の育児に悩むお母さんたちの交流と学びの場となっています。

 私がこのように,大切なわが子の療育と自分の好きな仕事の両方を続けてこられたのは,家族全員で協力してきたことはもちろん,多様な働き方を推奨する職場と,息子が赤ちゃんの頃から我が家の状況を理解し,配慮し,応援してくださる上司や同僚のおかげだと,心から感謝しています。

 とはいえ,民間企業で働く以上,ただ「がんばっています」というだけではいけません。みんなと同じように働けないことで,どうしても肩身の狭い思いをすることもあります。在宅勤務で皆から見えない場所で働くためには,一緒に働く人から信頼してもらうことが不可欠です。時間や場所に制約があっても,会社に貢献成果を出すには?……毎日普通に出社して,何時間でも残業できていたときよりも,大きな制約がある今の方が,時間の使い方や仕事の効率・成果・品質を真剣に考え,それらが見える形でアウトプットできるようになりました。特にタイムマネジメントやリスク管理については,あらゆる想定のもと,どんな事態になっても納期厳守できるよう万全を期しています。さらに,在宅勤務に便利なツールが増えたことにも助けられ,離れた場所にいる同僚ともリアルタイムで情報を共有できます。このようなことを何年も積み重ねてきたことで,在宅勤務の私にも安心して仕事を任せてもらえていると自負しています。私のほうも,見えないところでも私を支えてくれている職場の皆さんへの感謝の気持ちを仕事の成果で伝えたい,と強く思うようになりました。

 定型外社員が,多数派の定型社員の常識の中で生きていくには,不利なことがたくさんあります。思い通りにいかないことや,自分の努力ではどうにもならないこともあります。でも,その中でどうにかするために真剣に工夫したり,努力したりしながら身につける「定型外の強み」があります。

 自分が定型外社員になったことで,自閉症スぺクトラムという障がいを持った定型外の息子にも,定型外の強みが絶対にあるはず!と希望を持てるようになりました。その強みが将来,不利や苦手をカバーする力になると信じ,「みんなと同じやり方でなくてもいいよ」と認められる母でありたいです。