市民の実践例

平成26年度「真のワーク・ライフ・バランス」実践エピソード表彰「ボランティアで支える私のまち賞」受賞後藤純理さん

ここでは,平成26年度「真のワーク・ライフ・バランス」実践エピソード表彰で,「ボランティアで支える私のまち賞」を受賞された,後藤純理さんのエピソードを紹介します。

「ボランティアで支える私のまち賞」

 高校1年生だった頃の私の体験談です。その年の4月に越してきたばかりの新しい町で,梅雨明け間近の或る日,ふと町内掲示板の張り紙が目に留まりました。そこに書かれていたのは,近くの小学校で休日の校庭開放を開始するにあたり,子どもたちを見守るボランティアを募集するという内容でした。近所とはいえ,馴染みの無い土地の,通ったこともない小学校の校庭。もちろん,知っている子もいなければ,私の存在を知っている人たちも誰もいない。おまけに,夏休みには,だだっ広い地面に太陽は容赦なくギラギラと日差しを照りつけるだろうし,それは美白の大敵。ポスターを見なかったことにする理由などいくつもいくつもありました。

 けれど,その時私の脳裡に,ほんの数年前の自分たちの姿が浮かんできたのです。無条件に楽しかった校庭。私たちは,校庭でいろんな遊びを覚え,いろんな時間を過ごしていたのでした。ひととき,温かい気持ちになって,私はボランティアに初挑戦することに決めました。夏の一日一日を校庭で小学生と過ごし,そのうち,一緒にサッカーをしたり,ドッジボールをしたり,鉄棒や一輪車に挑戦する子どものサポートをしたり,木陰でおしゃべりをしたり。それだけではなく,たまに迎えのお母さんたちに会釈をされたり,挨拶の言葉を交わしたり。昔,いつも笑顔でいられた校庭は,新しい町でも,同じような思い出を作らせてくれました。

 そんなボランティアの夏が終わり,私にも以前と同じ,学校と家とを往復するだけの日々が戻ってきました。そうした或る日,学校帰りの小学生の数人が走って私を追い抜いていきました。カタカタ音をたてるランドセルの後ろ姿に,私は「気をつけて帰ってね。」と心の中で声をかけている自分に気付きました。この近所の小学生は全部知り合いであるかのような気持ちになっている自分にちょっと笑ってしまった出来事でした。

 それまでは,自分が住む自分の町なのに,電車通学で離れた場所で一日の大半を過ごし,家には寝に帰るだけの毎日で,単なる住民票の文字だけの存在でしかなかった私でした。このボランティアが私に地域との関わりを教えてくれ,それは多分,人との関わりであり,その町の「日常」との関わりだったと思います。そして,「私の町」という意識が確かに芽生えていたように思います。少しの勇気が必要でしたが,私の「地域デビュー」は,かけがえの無い経験となりました。

 その数年後,私はその町を離れましたが,年齢が上がるにつれ,住む場所の外に活動の場が拡大するにつれ,積極的な関わりを持とうという意識がなければ,年数だけを重ねても,町はなかなか身近にならず,無機質な風景が広がるだけ,という実感が強まります。あの時の小学生たち,今は大きくなっているんだろうな,元気かな。また,参加できそうなボランティアを探してみようかな・・。